会社のホームページを見ていると、最近は「社員紹介」や「スタッフの声」といったページを作っているところが増えてきていますよね。ぱっと見ではすごくいい雰囲気が伝わるし、実際に顔が出ていることで安心感も生まれます。採用を考えている人にとっては「この会社はこんな人たちと一緒に働くんだ」とイメージしやすいし、お客さんからしても「ここは信頼できそう」と思ってもらえる効果があります。
ただし、ここでよく考えないといけないのは、顔を出すのが役員ではなく、一般の社員である場合です。役員は会社の看板として公に名前や顔を出す立場だから、多少のリスクは仕事の一部として受け止めていることが多いです。でも、一般社員はそうではありません。入社して数か月の人、契約社員、アルバイト、パートといった立場の人まで顔を出してしまうと、予想以上に大きなリスクを背負わせることになってしまうのです。
一番わかりやすいのは、やっぱりプライバシーの問題です。ホームページに一度顔写真を載せたら、それは半永久的にネットに残ることになります。会社が削除しても、検索エンジンのキャッシュや、アーカイブサービス、あるいは第三者が保存して拡散してしまう可能性はゼロではありません。本人が退職して「もう消してほしい」と思っても、完全に消える保証はないんです。これが役員なら「しょうがない」と割り切れる場合もありますが、一般社員にとっては人生における大きな負担になることもあります。
そして今の時代は、写真の悪用リスクが一段と高まっています。昔なら単に写真をコピーされる程度でしたが、いまはAIによる画像生成やディープフェイク技術が進んでいるため、顔写真さえあれば本物そっくりの動画や別シーンに合成されることが可能になってしまいました。無断で広告に使われたり、なりすましアカウントのアイコンにされたりすることも十分に考えられます。もし詐欺に悪用されたら、本人だけじゃなく会社自体の信用も大きく損なわれますよね。
退職後の扱いも大きな問題です。社員紹介ページに載っていた人が退職したとき、その写真をすぐに削除できるかどうか。役員なら退任の発表などがあるので自然に整理されますが、一般社員は忘れられてしまうことが多いんです。結果として「この人まだ在籍している」と誤解されるケースも出てきます。退職した本人からしても「もう会社と関係ないのに、顔が出たまま」という状況は望ましくありません。場合によっては法的に削除を求められることもあり、トラブルに発展する可能性もあります。
さらに怖いのは、サイバー攻撃や詐欺のターゲットにされることです。社員紹介ページにフルネームと部署や役職まで載せてしまうと、そこからSNSアカウントを突き止めたり、住所や過去の情報を探し出されたりすることがあります。「営業部の〇〇さん、先日の展示会でお会いしましたよね」といった電話やメールで騙されるケースもあります。実際に企業を狙った標的型攻撃メールでは、社員の名前を騙ったメールがよく使われています。顔と名前が公開されていると、悪意のある第三者からすれば格好の材料になってしまうんです。
心理的な負担も侮れません。ホームページに顔が載ると、お客さんから「サイトで見ました」と声をかけられる機会が増えます。営業職ならそれがむしろ仕事にプラスに働くこともあるかもしれませんが、経理や総務のように直接顧客対応をしない社員にとっては、ただのプレッシャーになります。
しかもネット社会では、顔が知られることで全く関係ない人からSNSで声をかけられたり、写真を使ってからかわれたりすることだってあります。本人が内向的な性格ならなおさら、仕事とプライベートの境界を壊されるようなストレスを抱えるかもしれません。
会社としても、リスクを軽く見てはいけません。社員の顔写真を載せる場合は、必ず本人の同意を得る必要があります。しかも「口頭で了承をもらったから大丈夫」では足りません。後から「そんなの聞いてない」と言われたときに証拠を出せるように、書面やメールなど残る形で同意を取るべきです。
これを怠ると、肖像権の侵害として訴えられる可能性だってあります。企業側は「宣伝のつもりだった」と言っても通用しません。社員の権利を侵害したことになれば、会社の責任問題に発展します。
ではどうすればいいのか。顔出しを全面的にやめるのも一つの方法ですが、それだと温かみが伝わらないとか、採用活動に不利になると考える会社もあるでしょう。そういう場合は、リスクを減らす工夫が大事です。たとえば顔写真は集合写真の一部だけにするとか、名前は苗字だけにして個人を特定しづらくする。もしくはイラスト風に加工してリアルさを和らげる方法もあります。また「顔を出すのは任意です」というルールを明確にして、希望する人だけが掲載されるようにするのも重要です。
さらに、退職時には必ず顔写真を削除する仕組みを作っておくこと。これをルール化しておかないと、削除漏れが起きてトラブルにつながります。また、無断転載を防ぐために写真に透かしを入れる、解像度を下げるなどの方法もあります。完璧に防ぐことはできなくても、悪用されにくくする工夫はできます。
役員と一般社員の立場の違いをしっかり認識しているかどうかがポイントです。役員は会社の顔として出るのが仕事の一部ですが、社員はそうではありません。本人が「顔を出したい」と思っているなら問題ないですが、嫌がっているのに会社の都合で無理に出させるのは大きなリスクを生みます。企業は短期的なイメージアップだけを考えるのではなく、社員一人ひとりの将来やプライバシーを尊重する姿勢を持つべきです。
会社がこれから社員紹介ページを作ろうとしているなら、単に「写真を載せたら雰囲気が良くなるよね」という軽い発想ではなく、「本当に本人が納得しているか」「辞めたときにどう対応するか」「悪用されたらどう守るか」という具体的な想定を持って準備することが欠かせません。社員にとって安心できるルールがあれば、顔出しのメリットを活かしつつ、リスクを最小限に抑えられるはずです。
社員の顔出しは諸刃の剣なんです。うまく使えば会社の魅力を伝える強力な手段になるけれど、安易にやれば大きなトラブルの火種にもなる。その違いを分けるのは、会社がどれだけ社員を大切にし、リスクを真剣に考えているかにかかっています。
ホームページに顔写真や実名掲載は必要?信頼を築く別の方法